تسجيل الدخول高校生活二日目。
クラスは既に打ち解けていた。 特に男子は、どの子が可愛いという話題で持ちきりだった。 2年の新島楓先輩という人が、学校で一番人気らしい。 放課後、ジャージに着替え、めぐとテニスコートへ向かう。 テニス部の体験入部の合間に、新島先輩と会話した。「佐藤さん、だっけ? テニスはずっとやってたの?」
「はい。3年間テニス部でした」 「そうなんだ。どうりで筋がいいわね。それに華もあるし」そう言ってニッコリ笑う。
素直に向けられている笑顔ではなかった気がした。 謙遜することなく私は「ありがとうございます。新島先輩から褒められるなんて思ってなかったので、嬉しいです」
と口角を上げて答える。
先輩は一瞬目を見開いたが、直後に「フフッ」と笑った。「……佐藤さんとは仲良くなれそうだわ。そうだ、柚希ちゃん、って呼んでもいいかな?」
「もちろんです。これからもよろしくお願いします、先輩」 その後も入部体験は続いた。 私とめぐは新島先輩に気に入られたらしく、色々と話した。 体験入部が終わり、めぐと帰路に着く。 来週から本格的に部活が始まる。「優しい先輩ばっかでよかったね~」
「そうだね」 「特に新島先輩! 学校一のアイドルなんて聞いてたから少し怖かったけど、すっごい親切だったよ」 「……うん。そうだね」めぐは素直に嬉々として新島先輩に懐いている。
だけど私の心には何か引っかかるものがあった。 あの人は私と同じかもしれない。 杞憂かもしれないけど、新島先輩はマークしておこう。「そうだ、めぐ。日曜日空いてる? また協力して欲しいの」
「うん。いいよ! 私も友也さんとお話ししたいから」めぐ約束をし、日曜日にまた実戦訓練を行うことにした。
夜、部屋のベッドで寝転がって考えにふける。 クラスのみんなと仲良くなり、テニス部の先輩からもよくしてもらっている。 出だしは好調だ。「新島楓……」
今一番気になってるのは、学校一のヒロインと名高い2年生の新島先輩。
同じテニス部だけど話せる時間はあまりないので情報が足りない。 同じ学年のお兄ちゃんなら何か知ってるかも。 そんな思惑と共に、いつも通り 〈11時に私の部屋に来て〉とだけ書いて送る。
11時にお兄ちゃんが部屋に来た。 新島先輩から明日家に招待されたらしい。 即決で私も行くと言った。 そして私とお兄ちゃんは今、とても大きな家の前に立っている。 さすが学校一のアイドル、見るからにお金持ちな家だ。 怖気づく間もなく新島先輩の自室に招かれる。部屋の中央にある丸いテーブルを三人で囲むように座っている。
三人が三人共顔が見える位置取りだ。「今日は来てくれてありがとう」
「今日はお招き有難うございます」部活でしか関わることのない先輩。
本当の先輩がどんな人なのか見定めないと。 私の思うような人だといいけど。 「とりあえず何から話しましょうか?」声のトーンが落ちた。
こっちが素の新島先輩か。 なら私もヘタに取り繕う必要はないか。 「柚希ちゃんが来てるって事は友也君から全て聞いたと思っていいのかな?」 「はい。全て聞いた上で来ました」 「そう」たった一言ずつのやり取り。
私たちにとってお互いの本性を見抜くにはそれで十分だった。部活での先輩と、今の先輩の印象差。
そして、なぜこのタイミングで私たち兄妹にそれを打ち明けたのかを思案する。 先に沈黙を破ったのは新島先輩だった。「柚希ちゃんに聞きたいんだけど、今までどういった内容の事をさせてきたの?」
私は春休みの特訓や新学期に入ってからの課題の事を話した。
「なるほどね~。悪くないわね。でも学校が始まった今では柚希ちゃんのやり方には限界があるわね」
「はい。課題は出せてもサポートは出来ないので。ですから、新島先輩との協力関係は素直に嬉しいです」 「そう言って貰えるとこっちとしても助かるわ。でもいいのかな? 上手くいけば友也君は私と付き合う事になるけど」 「むしろありがたいです」 「ありがたい?」 「はい。二人が付き合う事になればお兄ちゃんは学校一の完璧美少女の彼女持ちになります。そうなれば必然的に妹である私の株も上がりますから」 「そう。ならよかった」 「ええ」なるほど、新島先輩もお兄ちゃんをリア充にする事だったのか。
だったらここは協力した方が私の計画の近道になる。 おまけにお兄ちゃんと付き合うとまで言っているから、これこそ棚からぼた餅という奴だ。その後、水瀬先輩のあだ名の話になった。
どうやら水瀬先輩をあだ名で呼ぶ事になったらしいが、その過程で水瀬先輩はお兄ちゃんに惚れたっぽい。 それにしてもここまでお兄ちゃんが天然ジゴロだったなんて……。 はぁ。それに加えて二人だけの秘密のあだ名にも関わらず、「皆にはちゃんと説明する」と言い出した。
全く女心が分かっていないお兄ちゃんに任せていられない。 新島先輩もそう思ったらしく、お兄ちゃんに力を貸す事にしたようだ。水瀬先輩に送るLINEの内容を新島先輩と考える。
新島先輩と肩を並べて画面を覗く。 先輩が書く内容は女心のツボを抑えていて、かつ、水瀬先輩のツボも抑えているのがよく分かる。 やっぱり新島先輩は侮れない。「新島先輩、これからの課題どうしましょう?」
「ん~、そうね~」LINEを送り終えた後も先輩からどんどんアイディアを出してくる。
今までは警戒していたけど、味方になると心強い。 「――それじゃその案でいきましょうか」 「はい」その後の話もスムーズに進んだ。
「とりあえず今日はこんな所ね。そろそろお開きにしましょう」
という言葉で今日の会議は終わった。
玄関で靴を履いていると「そうそう、学校では今まで通りでお願いね」
あくまでも学校では猫を被るようだ。
夜の11時、LINEでお兄ちゃんを呼び出した。 今日の反省会をした。 普段の新島先輩との違いに気づいていなかった。どこまで鈍感なのだろう。 会話の話題作りの基本、相手を観察する事を教えた。 ここでもう一度めぐの出番だ。「お兄ちゃんには明日実戦訓練してもらいます!」
「実戦訓練!?」 「そう! 今回もめぐに協力してもらうの。もう約束は取り付けてあるから安心して」 「めぐって春休みに実戦訓練したばかりじゃないか。 訓練になるのか?」お兄ちゃんの疑問にチッチッチ! と指を振り
「今回は事前に情報提供しないからね。お兄ちゃんが自分で話題を探すの! これだけでも前回よりかなり難しくなってるよ!」
と腰に両手を当ててエッヘンッ! といった感じで言う。
意外にもそれを聞いたお兄ちゃんは余裕がある顔をしていた。 ちょっと前までは怖気ついていたのに。「めぐは初めて会う訳じゃないしな。まかせろ!」
そんな強気な発言で今日の会議は終了した。
お兄ちゃんが私のことをずっと好きだった……? にわかには信じられない言葉を聞いて混乱する。「だから柚希のことを気持ち悪いだなんて思わないし、俺のことが好きだと言ってくれて嬉しい」 真っ直ぐ、視線を外さずに言葉を浴びせてくる。 私のことを好きだと言ってくれて凄く嬉しい! だけど、それをどこまで信じていいか疑っている自分もいる。 そんな自分が嫌だとわかりつつも、私の口は勝手に動いていた。「新島先輩は? お兄ちゃんの初恋は新島先輩だったって言ってたよね」 そう問いかけると、お兄ちゃんは困った様に頭を掻きながら答える。「確かに楓は俺の初恋の女の子だ。でもそれは柚希以外での事なんだ」「私以外で?」 首を傾げる私にお兄ちゃんは説明を始めた。「ああ。さっきも言った通り、小さい頃から柚希の事を一人の女の子として好きだった。だけどそれは歳を重ねていく内に許されない恋なんだと知った。だから柚希以外の子を好きになろうと思った。けど、その時の俺は周りから孤立していたし、どこかで無理かもなって思いもあった」 孤立してしまった原因を作ってしまったのは私の所為だし、あの一件で余計にお兄ちゃんの事が好きになったんだっけ。「そんな時、一人の女の子が俺に話しかけてくれた。周りからボッチだのヲタクだの言われてる俺に対して優しく接してくれた。その当時の俺は自ら人を避けていたけど、その女の子と話している間の空間は凄く居心地がよかったんだ。そういう事も重なって俺は始めて柚希以外の女の子を好きになった」 そう語ってくれたお兄ちゃんに対して、私は更に意地悪な質問をする。「水瀬先輩の好意や、友華さんと沙月ちゃんに対してはどうなの?」「こんな俺に好意を寄せてくれるのは凄く嬉しかったし、俺自身みんなに惹かれていってた」 そして深く息を吐き、申し訳無さそうな顔をする。「だから皆とは付き合えないと伝える決意をするのに時間が掛かっちゃって申し訳ないと思ってる」 そう
私は今何て言った? 部屋の前で盗み聞きをして、沙月ちゃんとお兄ちゃんがそういう会話が聞こえてきて……無意識に部屋に飛び込んだ。 その後に沙月ちゃんと口論になって……それから――――『お兄ちゃんの事が好きなんだから!!』 そうだ……お兄ちゃんを盗られたくない一心で――――「柚希……今のって」 お兄ちゃんは状況が理解出来ないといった感じで見つめている。 それもそうだ。突然妹からあんな事言われたら混乱するに決まってる。「やったね柚希ちゃん。やっと言えたじゃん!」 沙月ちゃんが嗜虐的な笑みを浮かべながら私の肩をポンッと叩く。 ハメられた! きっと私が部屋の外で話を聞いてると踏んで沙月ちゃんは最初からこうなる様にお兄ちゃんに色仕掛けしてたんだ! 「っ!」「柚希ちゃん!」「ちょ、待てよ!」 どうしよう! どうしよう! どうしよう! どうしよう! 言うつもりは無かったのに! 妹として傍にいようって決めてたのに! 幾ら沙月ちゃんに煽られたからってあんな事言っちゃうなんて!「はぁ、はぁ……ここは?」 お兄ちゃんから逃げる事しか考えて無かったから、いつの間にか公園に辿り着いちゃった。 でも、ここまで来れば流石に見つかんないよね……。「はぁ……これからどうしよう」 ベンチに腰を下ろすと、つい言葉が漏れてしまった。「ビックリしてたなぁ……」 そりゃそうだよね。実の妹が異性として兄を好きだなんて思ってもみないだろうし。 はぁ……流石に嫌われちゃったよね……。「柚希! ハァハァ&h
『自分の気持に素直になってみたら?』 翌日になっても新島先輩の言葉が頭から離れない。 素直になっても報われないなら……もしかしたら気持ち悪い妹だと思われたらと考えてしまう。「ダメだなぁ……ネガティブな事しか浮かんでこない」 そう独りごちて、思考を振り払う様に頭を振る。それから大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせてお兄ちゃんの部屋のドアをノックして中に入った。「どう? お兄ちゃん。少しは良くなった?」「ああ、熱も下がって倦怠感も無くなったよ」 そう言って腕をぐるぐる回す。 「良かった。でもあまり調子に乗らないように! 今日一日は安静にしててね」「大丈夫だって」「ダメでーす。風邪はひき始めと治りかけが一番重要なんだから」「母さんみたいな事言うな」「はいはい、なんとでも言いなさい。とにかく安静にしてるんだよ」「はぁ、分かったよ」 諦めたようにベッドに横になるお兄ちゃんを見届けて部屋を出た。 少し体調が良くなったからって直ぐ調子に乗るんだから。 でも、良くなってよかった。 リビングでテレビを見ながら勉強しているとインターホンが鳴った。 まさかまた新島先輩が来たのかな? と頭の隅で考えつつモニターを確認すると、今度は沙月ちゃんが立っていた。 玄関を開けると沙月ちゃんは元気良く挨拶してくる。「柚希ちゃんやっほ~」「やっほー。もしかしてお兄ちゃんのお見舞い?」「うん。急だったけど大丈夫かな?」「大丈夫だよ。体調も良くなってきてるし」「よかった~」 家に招き入れお兄ちゃんの部屋まで案内する間、疑問に思った事を聞いてみる。「そういえば、どうしてお兄ちゃんが体調崩したって知ったの? 心配掛けない様に黙ってたのに」「昨日南さんから聞いたんだ~。南さんは楓さんから聞いたって言ってた」「そうだ
水瀬先輩の想いを聞いてから数週間が経った。 当初懸念していた接し方や態度も以前と変わらず、普段どおり接してきてくれるとお兄ちゃんから聞いた。 それに一番驚いたのは水瀬先輩が合コンにハマった事だ。 沙月ちゃんに無理矢理連れて行かれた合コンで、チヤホヤされたのが嬉しかったらしい。 合コンの度に「やっぱりトモより良い男いないや」とボヤいていたので、今でもお兄ちゃんの事は好きなんだと思う。 だけど水瀬先輩はお兄ちゃんにはそんな素振りを一切見せていないらしい。 多分それはお兄ちゃんが好きで、幸せを願っているからこそなんだと思う。 沙月ちゃんのお陰で水瀬先輩は気持ちの整理が出来たのは嬉しい反面、合コンにハマってしまっている事に関してはお兄ちゃんも心配していた。「沙月には感謝だけど、他にやりようはなかったのかなぁ」 とお兄ちゃんがボヤいていた。 まぁ自分の事を好きで居てくれた女の子がいきなり合コンにハマりだしたのだから複雑な気持ちなのだろう。 お兄ちゃんだけでなくグループの人達全員が水瀬先輩の変わりように戸惑っていたみたいだ。 それも最初の内だけで、今では水瀬先輩=合コンというキャラが定着しつつあるらしい。 実際私も何度か誘われたが丁重に断った。 そんな出来事がありながら中間試験も終了し試験休みに入ったのだが、休みに入った途端、お兄ちゃんが熱を出して倒れた。 そして今は看病の真っ最中だ。「もう、お兄ちゃんは無理し過ぎだよ」「ゴホッゴホッ! すまん……」 どうしてこうなったかというと、文化祭のライブが切っ掛けだった。 振替休日が終わり学校へ行くと、1年から3年まで分け隔てなく女子から猛アプローチを受けていた。 授業が終わり帰宅する時には、校門に他校の女子が出待ちまでしてたし。 アプローチされても軽く流せばいいのにお兄ちゃんは一人ひとり丁寧に対応し、睡眠時間をへらしてまでファン達の相手をしていた。 気持ちを無下にできないっていうお兄ちゃんらしい優しさではあったけ
昨日は凄い一日だったなぁ。 お兄ちゃんが水瀬先輩を振るシーンを見ちゃったり、その後参加した打ち上げの後での新島先輩とお兄ちゃんのやり取りを聞いたり。 新島先輩がなんで私にまで話を聞かせたかは未だに分からないけど、問題は水瀬先輩なんだよなぁ。 もしこれで水瀬先輩がお兄ちゃんから離れていってしまったら絶対お兄ちゃんのグループの雰囲気は悪くなる。そうなると中居先輩が黙ってないだろうし……。「それに……お兄ちゃんの好きな子ってやっぱり――」 試験勉強をしていたがどうしてもその事が頭に浮かんでしまう。 残る候補は沙月ちゃんだけだからほぼ確定なんだろうけど……沙月ちゃんはお兄ちゃんのことどう思ってるんだろう。 私のことを応援すると言ってくれてたけど、私の事を理由に断って欲しくない。 例えお兄ちゃんが沙月ちゃんと付き合ったとしても、私はお兄ちゃんの妹だし、これまで通り傍に居られるだけでいい。 そんな事を考えているとスマホの通知音が鳴った。 スマホを手に取り確認する。「水瀬先輩からだ……」 アプリを開いてメッセージを確認する。〈大切な話があるから今から話せないかな?〉 大切な話ってなんだろう? それよりも気持ちの整理はついたのかな。 とりあえず返信しないと。 〈大丈夫ですよ〉 〈ありがと。沙月ちゃんにも話すから今グループ作るね〉 わざわざ3人だけのグループを作って話すことってなんだろう? そう考えている内にグループへの招待が来たので参加する。 沙月ちゃんも参加して全員揃ったところで通話が掛かってきた。「もしもし、こんにちは」「南さんこんにちは~」「2人ともこんちはー。急にごめんね~」「いえいえ、大丈夫ですよ」「はい、丁度暇してたので問題ないです」 話し方や声のトーンはいつもと変わらない。
新島先輩に続いて水瀬先輩までフラれた。 そうなるとお兄ちゃんの好きな女性は必然的に沙月ちゃんって事になる。 沙月ちゃんには今まで色々相談に乗って貰ったり、私の唯一の理解者でもあった。 だからこそ私が沙月ちゃんを祝福してあげないと。「待たせて悪いな」「ひゃっ!」 考え事をしていたらいつの間にかお兄ちゃんが校門にやってきていた。 ビックリして変な声出ちゃったけど不審に思われないよね?「なんだよその反応は。ちょっと傷ついたぞ?」「ご、ごめん。ちょっと考え事してたからお兄ちゃんに気づかなくて」「まぁ遅くなった俺が文句言えないか。んじゃ行くか」「……う、うん」 水瀬先輩はどうしたの? という言葉を飲み込んだ。 私があの現場を見ていたと知ったら色々気まずいだろうし、何より水瀬先輩の事を思うと私が見てたという事実は無かった事にした方がいい。「文化祭は楽しかったか?」「楽しかったよ。特にお兄ちゃんのライブは興奮したなぁ~」「その話はやめてくれ。皆褒め過ぎなんだよなぁ」「とか言ってお客さんを凄い煽ってたりしてたじゃん」「あ、あれはああやれって言われたから仕方なくだよ」「それにちゃっかりクラスの宣伝までしちゃって~」「うぅ、あれは……もうなんとでも言え!」「あはは、ごめんごめん」 お兄ちゃんを揶揄っていると打ち上げ会場に着いた。 入店すると沙月ちゃんが出迎えてくれた。「柚希ちゃんいらっしゃ~い」「おじゃましま~す」 沙月ちゃんと軽いハイタッチをしながら挨拶を交わす。「あ、友也さん遅いじゃないですか~」「掃除当番だったから皆には先に行ってて貰ったんだ」「そうだったんですね。じゃあ早く着替えてきてください、忙しいんですから」「ああ、わか……って今日は客で来てんだよ」「え? 手伝ってくれ







